5G ミリ波は必要?Sub6にはないメリットと普及しない理由を解説

5G

5Gのサービスインから1年半が経ち、ミリ波の商用化も1年が経ちました。

一部を除き、ようやく広がってきたと感じるエリアの広さになってきましたが、ミリ波は都心以外ほとんどと言っていいほど展開されていません。

サービスエリアマップ | スマートフォン・携帯電話 | ソフトバンク (softbank.jp)(2021年11月19日閲覧)
サービスエリアマップ | 通信・エリア | NTTドコモ (nttdocomo.co.jp)(2021年11月19日閲覧)

また海外でもミリ波を正式に商用化かつ対応機種を多数展開している国は執筆時点で日本とアメリカ程度に留まり、グローバルでもほとんど普及していません。

今回は何故これほどまでにミリ波は普及しないのか、という疑問について深堀りします。

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メリット① 超高速通信が可能である

一般的に電波は帯域の幅が広ければ広いほど通信速度が速くなります。しかし、周波数は低ければ低いほど需要が高く、広い帯域を確保できません。

そこで、帯域を広く確保するために従来よりも圧倒的に高い周波数を使用しようと策定されたのが約24GHz以上のミリ波です。

これにより、約6GHz以下(Sub6)の周波数では確保が難しい400MHz以上の幅を確保し、1Gbps以上の超高速通信を実現しています。

今後更に帯域を確保することにより、10Gbps以上の通信速度が可能になるでしょう。これはSub6だけでは実現できません。

メリット② 同時接続数の多さ

帯域幅が広いということは、同時に収容できる人数も増加します。

現在日本の4Gでは時間帯や場所によって非常に混雑しますが、このような場所に高速通信が可能な5G周波数を追加することにより、混雑を緩和することができます。

ミリ波はSub6以上に帯域幅が広く、今後の更なるトラフィック増加に十分備えることができるでしょう。

デメリット① 遮蔽物に弱すぎる

一方でデメリットや課題はSub6より圧倒的に多くなっています。

その一つ目として「高い周波数ゆえの減衰しやすさ」があり、従来の携帯電話向けの周波数(低~中周波)よりも極端に高いため、屋内にはほとんど浸透しません。

マルチスペクトラム5G
出典:T-Mobile

基地局のアンテナが見通せる場所でないと大きく減衰し、その分通信品質も落ちます。もっと言うとミリ波は圏外になります。

またスマートフォンといった端末側でも、アンテナを指で塞ぐだけで信号強度がかなり低下してしまいます

このようにミリ波はかなりシビアなため、扱いにくいのが現状です。

デメリット② 高い技術を要する

周波数の高さに起因するデメリットは減衰のしやすさだけではありません。

非常に高い技術を要するため、通信の高度化も難しく、同じ帯域幅あたりの最大通信速度はSub6よりも劣ります。

また整備するだけにはとどまらず、このミリ波に対応した端末を製造する必要がありますが、この対応させる工程にも高い技術を要し、それだけ製造コストが跳ね上がってしまいます。

そのため端末の高価格化がどうしても避けて通れず、価格を抑えるためミリ波を非対応とする機種が多いのです。

デメリット③ 衛星通信との干渉を考慮する必要がある

日本では現在5Gミリ波として28GHz帯が使用されていますが、これは以前より衛星通信のアップリンクとして使用されている帯域となっています。

そのため、あくまで既存の衛星通信が優先されるので、当初からミリ波の展開できるエリアは制限されているのです。

なお、高速通信が可能な中周波数、つまりSub6の5Gとして2019年に割り当てられた3.7GHz帯(3600MHz~4100MHz)も同様に、衛星との干渉が起きないようにエリアが制限されています。

アメリカ・日本における5G

余談ですが、アメリカおよび日本は早期からミリ波を商用化している珍しい国です。しかしそれぞれの事情は全く異なっています。

それぞれ何故早期からミリ波を展開する必要があったのかを考察してみます。


世界で最も採用されている、4Gよりも広い帯域を確保し高速通信を行う周波数は、Sub6の中周波数3.5GHz帯(n78)です。

アメリカのメディアであるPCMagによると、主要な5Gバンドとして中周波数(n78/n41/n40など)を採用する世界の移動体通信事業者(MNO)は8割近くまで上るとのこと。

実際にほとんどのヨーロッパ・アジア諸国では、n78を採用するMNOが多く存在します。

他のほとんどの国が主にミッドバンドをどのように使用しているかを示すチャート
出典:PCMag

国際標準的には、n78として利用できる3300MHz~3800MHzの帯域を使用することが最も望ましいですが、アメリカは既にこの帯域の大半を他の用途で使用していました。

そのためMNO向けに主力の5Gとなる中周波数の割当が長らく実現せず、必然的にミリ波で高速通信をアピールせざるを得なかったのです。

5G & 4G LTE Coverage Map: Check Your Cell Phone Service | T-Mobile(2021年11月19日閲覧)

Sprintを吸収し、唯一広い帯域の中周波数(2.6GHz帯・n41)を使用できるT-Mobileは、アメリカのMNOで最も5G高速通信エリア(5G Ultra Capacity)が広くなっています。

Verizon Coverage Map: Nationwide 5G and 4G LTE Network Cell Phone Coverage | Verizon(2021年11月19日閲覧)

一方広い帯域の中周波数が長らく割り当てられなかったVerizonでは、高速通信としてアピールできる周波数がミリ波のみでした。

そのため都心のごく一部でしか5G高速通信エリア(5G Ultra Wideband)を展開できないため、T-Mobileと比較し不利な状況となっていることが見て取れます。

このようにアメリカでは一部のMNOを除き、ミリ波をピックアップしてアピールせざるを得ない状況に長らく晒されていたのです。


一方で日本はそのような制約は一切なく、3.7GHz帯(3600MHz~4100MHz)として全てのMNOに最低でも100MHz幅は割り当てられています。

これは高速通信を行うには十分な帯域幅であり、1Gbps以上の通信速度をミリ波でなくとも十分実現できます。では何故ミリ波を早期に展開したのでしょうか?

あくまで憶測ですが、それは主に「技術力のアピール」だと筆者は考えています。

先進国では早ければ2018年末に5Gサービスを商用化し、2019年にはそれなりに足並みが揃っていました。

しかし日本は2020年3月と、先進国としてはかなり遅くサービスを開始しています。現在進行形で他国に比べて遅れを取っている、と言っても過言ではありません。

そのため世界に技術力をアピールするためには、他国がほとんど商用化していない「ミリ波」の早期展開が必要だったと考えられます。

まとめ

余談が長くなりましたが、端的に言うと「現状では費用対効果が見合わないのでミリ波はあまり普及していない」という結論になります。これは日本だけに留まらず、世界でも言えることでしょう。

そもそもミリ波というものは都心やイベント会場といった局所的な場所でトラフィックを捌き切るためのものなので、常識的に考えて今後も既存の周波数のような面的エリア展開は期待できません。

またアメリカでは、2021年に広い帯域を確保した3.7GHz帯の割当がMNO向けに行われました。

よってミリ波でしか高速通信がアピールできなかったVerizonを含むアメリカのMNOは、中周波数での面的エリア展開と高速通信が両立できるようになります

ミリ波の高速通信アピールも技術の革新がない限り、徐々に薄れていくのかもしれません。


アイキャッチ画像:T-Mobile for Business

参考

What Is C-Band, and What Does It Mean for the Future of 5G? | PCMag

The 5G Spectrum and Why it Matters| T-Mobile for Business

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