Galaxy Tab S9 FEシリーズを日本で展開する意図とは？サムスンの戦略を考える

Galaxy Tab S9 FE、Galaxy Tab S9 FE+ 5Gが日本でも発表されました。

これらは海外だと大々的なプロモーションを行っておらず、少し影の薄いモデルと言えます。そのようなモデルが日本に展開されることは極めて珍しく、まさかこれらが発売されるとは思わなかった、と思った人も多いのではないでしょうか。

日本でも大々的な発表こそ行われていませんが、Galaxy Tabのセルラーモデルが個人向けに発売されるのは実に9年ぶりです。以上のことから、日本ではこれらの販売に力を入れ始めたと言っても過言ではないでしょう。

なぜ日本でタブレットを、しかもFEシリーズを展開するのか、国内外問わずサムスンの動向を追いかけている筆者が考えてみました。

iPad一強を打破したい？

結論を先に言うと、サムスンはGalaxy Tab S9 FEの競合相手をiPad(第10世代)とみなしている可能性が非常に高く、日本でもそのシェアを奪おうとしていると考えられます。

以下いくつか根拠を挙げます。

米国でGalaxy Tab S9 FEは449ドルから販売されています。

これは同じくカラフルな色展開を行っているiPad(第10世代)と全く同じ価格設定であり、iPadを購入しようとするユーザーを自社のエコシステムに引き抜く狙いがあるとみられます。

そして日本でも、まるで68,800円のiPad(第10世代)に合わせたように、68,799円という価格で販売されます。

ちなみに執筆時点のレートで449ドルを日本円(税込価格)にすると約73,800円となります。円安が進行しているにも関わらず、ドルから見て割安な価格で販売することから、サムスンはそれなりに日本市場を重視している様子が伺えます。

なおau版として販売されるGalaxy Tab S9 FE+ 5Gは105,800円で販売されますが、同構成が香港で5,588香港ドル(約106,800円)で販売されているため、いずれにせよ「おま国価格」と言えるほど割高な価格設定にはなっていないようです。

一般的に日本でGalaxy Tabが発売されても、カラー展開は原則1色のみでした。ところがGalaxy Tab S9 FEではミント、ラベンダーを含む3色構成となっています。

カラー展開が少なかったり、地味なカラーばかりであれば、購買意欲が低下するユーザーもいるでしょう。タブレットでカラフルな展開はiPad程度しかなく、やはりこれもiPadを意識したものである可能性は高いと言えます。

モバイルOSを搭載したタブレットといえば、種類が少ないか、2～3万円以下の安価なAndroid製品ばかりです。中価格帯以上のタブレットはAppleのiPadがほぼ独占した状況であり、それゆえ他社はほぼ淘汰されています。

逆に言うと、現状この価格帯はiPadしかライバルがいないということになります。ここに敢えて攻め込むことにより、Appleの独壇場を崩そうという目標があるのかもしれません。

この独占的な市場に当面の赤字を覚悟で展開できるのは、よほど体力のある大手メーカーしかできません。モバイル端末のトップメーカーであるサムスンだからこそできる技とも言えるでしょう。

以上のことから、サムスンがiPadの独壇場である日本のタブレット市場を大きく変えようとしているのは間違いないでしょう。

しかし、実際にそれが実現できるかはまだ分かりません。

製品をヒットさせるためには、スペックのような「理性的な要素」も必要ですが、知名度やイメージといった「感性的な要素」も不可欠です。

確かに、Galaxy Tab S9 FEシリーズはiPad(第10世代)と比べて、プロセッサを除く多くの部分が優れています。

Sペンは無料で付属しているし、ディスプレイのリフレッシュレートは90Hzまで対応しています。そのうえストレージはiPad(第10世代)の最低構成と比べて2倍も搭載しているため、同じ価格でも実質的に割安と言っても過言ではありません。

ところが、残念ながら認知度やブランドイメージはiPadの圧勝です。今後サムスンが大々的なプロモーションを行い、認知度の向上に成功させたとしても、感性的な部分でAppleに勝つことは非常に難しいでしょう。

実際に日本でGalaxy Tab S9 FEシリーズがヒットするかは、発売されてしばらく経てば分かります。

まだまだ様子見をしていることが伺える展開ではありますが、今後は日本でも、iPadのようなフルモデル構成での展開を期待しています。