近年、QRコードやNFC決済による乗車ができるよう、実験・導入を行っている関西の大手私鉄が増加しています。
南海電鉄は専用の改札を設置し、VISAタッチ(NFC)を利用したチケットレス乗車の実証実験を行っていたり、近鉄(近畿日本鉄道)も2022年春よりQRコードによるデジタル乗車券を導入すると発表しています。以前は阪神電鉄もQRコード乗車券の実証実験を行っていました。
しかし、何故SuicaやPASMO、ICOCA、PiTaPaといった交通系ICカードが十分普及しているにも関わらず、こういった新たな決済方法を導入しようとしているのでしょうか?
今回は日本や関西特有の鉄道事情について、ガジェット(電子機器)を取り扱うサイトの視点から深掘りします。
交通系ICカードが抱える問題
完璧とも思えるほど普及しきった交通系ICカードも、実は複数の問題を抱えています。
- 規格がガラパゴスである
単独のカードとして使用している場合は大きく気にならないものの、電子機器においてはこの規格が非常に足枷となっています。
何故なら交通系ICカードはFeliCaという、世界的にみると非常にマイナーな非接触決済の方式を採用しているためです。
これはNFCの分類となるものの、世界的に普及しているNFCの規格(Type-A/B)とは互換性がなく、対応するためには独自の設計が必要になります。
これにより電子機器のFeliCa対応はメーカー側にとっては相当な負担となっているのが現状です。
また海外向けの製品では大半がこれに対応していません。ほとんど日本でしか使えないようなものに対応させるという行為は、費用対効果が低すぎるためです。
そのため訪日外国人は自身のスマートフォンで日本の鉄道に乗ることができない、という場合が多いです。
※例外的にiPhoneは8以降であれば海外版でもFeliCaに対応しています。
例えば国内版Galaxyでは大半がこのFeliCaに対応していますが、海外版は費用対効果が低いため、全てのモデルで非対応となっています。
ただし日本の鉄道は非常に利用者が多いため、上記のNFCでは決済速度がまるで追い付かず、こういった独自に開発した規格を採用せざるを得ないという側面もありました。
- 関西は関東よりも交通系ICカードの利用率が低い
またこの交通系ICカードは関西と関東で利用率が異なり、前者のほうが2割ほど利用率が低いようです。
阪神電気鉄道(阪神電車)の都市交通事業本部電機部勤務課長・松本康宏氏によると、現在、SuicaやPASMOなどのICカード乗車券の利用率は、関西では7~8割、首都圏では9割に及ぶと見られる。
引用元:鉄道乗車券のQRコード化で起きる変化とは? 阪神電気鉄道が「脱磁気券100%」に向けた実証実験、その結果と今後の展望を取材した|トラベルボイス(観光産業ニュース) (travelvoice.jp)
逆に言えば磁気乗車券を利用するユーザーの割合が関西のほうが高いと言えるでしょう。
磁気乗車券が抱える問題
また、この磁気乗車券も維持管理と導入に多額の費用がかかる、というデメリットを抱えています。
現在の乗車券は、発駅や有効日などの権利の情報を磁気やICカードに記録し、それを高速で読み取って処理する。紙の磁気乗車券は、安価で安定して稼働する優れものだが、運用には専用の券売機や改札機が必要で、高額な費用がかかるデメリットもあった。改札機が9台ある阪神電車の甲子園駅の場合、初期投資の規模感は「都心部のマンションが買えるくらい」(松本氏)。加えて、保守や運用にも多額の経費がかかる。そのため、磁気に代わってIC乗車券を使用しない人に対応できる乗車券の開発が必要だった。
引用元:鉄道乗車券のQRコード化で起きる変化とは? 阪神電気鉄道が「脱磁気券100%」に向けた実証実験、その結果と今後の展望を取材した|トラベルボイス(観光産業ニュース) (travelvoice.jp)
磁気乗車券への対応に、維持管理を含む多額のコストがかかるとすれば、近年ICカード専用改札が増加しているのも納得できます。
こういったコストを削減するため、関東よりも交通系ICカード利用率が低い(≒磁気乗車券の利用率が高い)関西の私鉄が、ICカード専用改札の導入だけにはと留まらず、より積極的に新しい乗車方法を模索していると考えられます。
増加する訪日外国人に利用を促進
日本の人口は、出生率の低さから減少の一途を辿ると言われています。
これは鉄道の利用者も年々減少していくことを意味しており、鉄道事業者は今後の「鉄道」の在り方を考え直す時代が来ています。
一方で訪日外国人は年々増加しており、鉄道事業者各社はこの新たなインバウンド需要にも目を付けています。
しかし、一部のiPhoneしか使用できない交通系ICカードと、大半で日本円(現金)が必要な券売機で購入する必要がある磁気乗車券、という現状の2択では訪日外国人にとって利用する障壁が高いと言えるでしょう。
この利用障壁を下げるため、訪日外国人でも気軽に利用できるチケットレス乗車、という新たな選択肢を提案しているとも考えられます。
まとめ
低出生高齢社会に留まらず、コロナ禍にも直面している昨今。今までの考え方では、鉄道事業は今後続けていくことが困難になるかもしれません。また鉄道は公共交通機関というインフラである以上、できる限り存続させなければなりません。
まだまだ出口の見えないコロナ禍ですが、国内の旅行者数は回復傾向にあります。しかし人口減少問題は避けられないものであるため、長い目で見た利用者の増加は依然として見込めないでしょう。
こういった新たな決済方法の導入も、今後を見据えたコスト削減や新たな需要喚起の一環と言えます。
筆者的にはこういった独自規格に囚われない”新しい鉄道の乗り方“は歓迎すべきであると考えており、全国規模で導入の拡大を期待しています。
参考
鉄道乗車券のQRコード化で起きる変化とは? 阪神電気鉄道が「脱磁気券100%」に向けた実証実験、その結果と今後の展望を取材した|トラベルボイス(観光産業ニュース) (travelvoice.jp)
南海電気鉄道株式会社 – Visaのタッチ決済で南海電鉄に乗車。エリア限定 実証実験始動! | (nankai.co.jp)
近畿日本鉄道株式会社 ニュースリリース (kintetsu.co.jp)
阪神電気鉄道株式会社 ニュースリリース – QRコードを用いた乗車券に関する実証実験を行います (hanshin.co.jp)
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