5Gのサービスが一般に提供され始めてもうすぐで1年です。
しかし、エリアはというとほとんど広がっておらず、東京都23区内、大阪市内でもごくごく限られた場所でしか利用することができません。
費用の問題や新型コロナウイルス感染拡大による整備の延期、または衛星との干渉など理由は様々ですが、これを解決すべく、auとSoftbnakは4Gの周波数を5Gに転用する、所謂”なんちゃって5G“を積極的に推し進める方針を立てています。
一方で、docomoは「4Gと速度は変わらないため優良誤認の可能性がある」として、引き続き5Gとして新たに割り当てられた、帯域幅の広い周波数で整備を続けると発表しています。
何故このような方針の違いが生まれているのか、果たしてなんちゃって5Gは必要なのか、ということを掘り下げていきたいと思います。
docomoは3キャリアで最も混雑しやすい傾向にある
日本の移動体通信事業者(MNO)で最も契約者数が多いのはdocomoです。一般財団法人 電気通信事業者協会(TCA)によると、2020年9月時点では携帯電話の契約数が1億8500万回線あるうち、docomoだけで8000万回線ほど契約者数が存在します。よって、接続数が他のキャリアと比べても多いことが容易に想像できます。
実際に、docomoは本家の契約でも混雑により大幅な速度低下がみられる事がしばしばあります。現状でも混み合っているにもかかわらず、将来トラフィック量が今以上に増加するのは確実なので、このままではサービスの質が低下してしまいます。
よって超高速通信が行える「新たに割り当てられた帯域幅の広い周波数」を優先的に整備していると考えられます。これにより、基地局の混雑を緩和することができます。
また、docomoに新たに割り当てられた帯域幅の広い4.5GHz帯(n79)という周波数は、他社の新たに割り当てられた5G周波数と比べて衛星干渉が起きにくいです。これを生かし、2021年はメインで整備していく周波数となりそうです。

docomoも4Gを5Gに転用する
しかし、新たに割り当てられた周波数は高周波であり、広範囲のカバーには不向きです。なので、2021年度後半からdocomoでも4Gを5Gに転用する計画であると発表しています。
総務省の資料によると、現在全ての4Gバンドで5G化を検討しているとの事です。しかし、docomoは5G契約者増加による4G契約者のサービス品質低下を懸念しているため、全ての周波数を転用するのは当分先だと思われます。
なお、これらは一部を除きダイナミック・スペクトル・シェアリング(DSS)という技術を導入して4Gと5Gを同じ周波数で共存させる予定です。
5G導入の真の目的は”IoTの推進”である
5Gのメリットとしてよく挙げられる3要素は「低遅延」「多接続」「大容量・超高速通信」ですが、なんちゃって5Gは帯域幅の狭さから「大容量・超高速通信」は見込めません。しかし、他の2要素は実現できます(ただし現在は実現できていません)。
5Gは4Gよりも低遅延であり、レスポンスの速さから医療機器やドローン操縦・自動運転など4Gよりも多くの用途に利用できるようになり、技術の発展を後押しすることができます。
また今後増加していくIoT機器などに向けて、”接続の最適化“を行う技術が5Gに採用されるため、4Gよりも多接続に対応します(多接続は『スマホ利用者増加による混雑緩和』とは若干異なります)。
つまり携帯電話での通信の高速化以外にも、IoTを推進することで技術の発展を目指すという目的もあります。
そして超高速通信の整備をメインとせず、SA(スタンドアローン)方式を見据えて既存周波数でエリアを拡大し、広い範囲で低遅延・多接続を先に実現しようとしているのがauとSoftbankなのです。

まとめ 整備の順番が異なるだけである
超高速通信が行える新たに5Gとして割り当てられた周波数は建物の中や影などに回り込みにくく、性質上1つの基地局で広範囲をカバーすることができません。よって整備には多大な時間とお金がかかります。
このような理由により、5Gの3要素を全て満たすように、かつ一気に整備することは出来ません。順番に整備する必要があります。
このうち「大容量・高速通信」を先に整備すると決めたのがdocomoであり、「低遅延」「多接続」を先に整備すると決めたのがauとSoftbankなのです。
また、現在一般の個人が利用できる5Gは全てNSA(ノンスタンドアローン)方式といい、4Gのネットワークを使っているので、まだプレサービスの状態と言っても過言ではないでしょう。NSA方式の5Gでも多少は4Gより低遅延ですが、まだ真の低遅延・多接続を実現していません。
5Gのネットワークを利用する真の5GであるSA(スタンドアローン)方式が始まってからが本番といえます。今後に期待しましょう。
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