文責:高砂アーバンクリニック(キリストスティック)
はじめに
スマートフォンの日本市場におけるサムスン電子のシェアは、販売戦略の変化から減少傾向にあることは昔書いた通りです。1
一方でIDC JapanとMM総研いずれの調査においても、Appleのシェアが圧倒的です。
同じような販売戦略をとる両社ですが、依然として大きな差があります。23さらなるシェア拡大のためには、若年層へのアプローチが不可欠です。今回は渋谷ハチ公口前のPOPUPストアへ発売日前夜に訪れたレポートと体験内容から見えたGalaxyAIの改善点について考えてみました。

Samsungの狙いは?
体験機会の拡充
サムスンは2019年のgalaxy harajuku開業を皮切りに日本国内でのリアル体験の機会を充実させています。大阪の難波にあるgalaxy studioも期間限定の名目で開業したものの、既に2年近くが経過してまだ撤退の気配は全くありません。
我々のような者はスペック表と各種メディアが出すhands-onの記事で購買欲が刺激されます。
しかし、多くの人にとっては必ずしもそんなことはなく、実際に触って体験する機会や現行環境からの移行(多くはiPhoneでしょう)に関する情報提供や手軽さのアピールは非常に重要です。
そうした中で渋谷でのリアルイベントは非常によいものです。若年層へのアプローチには、若者が集まる場所でのリアルイベントが効果的です。再開発が進んだ最近では諸説4ありますが、渋谷は一応若者の街という一定のコンセンサスがあります。
またGalaxy Harajukuはビル一棟がまるごとサムスンですから、人によっては入りにくさもあるでしょう。しかしながら、このTSUTAYAの一スペースを借りたPOPUPストアであれば一定の気軽さを演出できるものと思います。
渋谷での体験内容
1グループにスタッフがついて、Galaxy S25シリーズの新機能を解説を受けながら体験させてもらいます。スタッフによると日中は30分ほど電源コードで縛られていないS25 Ultraを貸してもらって、店内で自由に試すこともできるようです。そのための撮影スポットも用意されていました。筆者は当然撮影はしていません。
Galaxy AIのデモはいくつかあって、まずテキストから画像を生成するもの(やたらと韓流スターみたいな画風になります)。かこって検索、そして目玉はYouTubeの動画再生中にGeminiを呼び出すと、要点を箇条書きでメモ帳アプリにまとめてくれるものです。5これはスタッフのお姉さんがデモしてくれましたが、うまくいきませんでした………
最後にアンケートに答えてクジを引いて終了です。Galaxy Tabも当たるとのことで張り切って回しましたが。結果はクオカードでした……
感想
AIはすごいけれど…
Galaxy AI自体は「なるほどわかりました」ぐらいでそこまで驚きはないです。おそらく開発時にはYouTubeを文字起こししてまとめてくれる機能はexitingでmarvelousでawesomeだったのでしょう。しかし、この分野の進歩はすさまじく,最近は類似のサービスが既にあります。
それに、冷静になってみると写真を元に自分をアバター化したい場面って人生にありますか?私はないんですけど、おそらく皆さんの多くも同様ではないでしょうか。
ハードウェアが魅力
むしろ6インチ前後で162gという軽さが非常に魅力的です。私は普段iPhone16 Proを使っていますが、スマートフォンは日常的に持ち歩くものなので、身軽に使えるハードウェアを重視したい、そんな気持ちになりました。
フレームは非チタンですが、スマホの側面がチタンであることでモテるとかそんなこともないことはよく分かっているのでかなりどうでもいいです。むしろ軽量化の恩恵を強く感じます。
考察
Galaxy Experience Spaceの意義
体験型マーケティングは、感情的なつながりを築くのに有効と言われています。優れた顧客体験はブランドへの忠誠心を生み、悪い体験は想像以上に顧客離れを起こします。67
Note7のことがあったので、このことをサムスンは特に意識して、理解しているでしょう。
体験スペースの設置・運営には高コストがかかりますし、参加者数や販売増加との比較で、投資対効果がどの程度あるのかもハッキリとはわかりにくいことと思います。とはいえ、若年層が友達同士で訪れることが多い渋谷で、ユニークな体験を提供する。それをTwitterやInstagramで共有してもらう。この流れで、口コミ効果も期待できます。特に、抽選会や特典もあるので、参加意欲が高まることでしょう。
渋谷にはApple Storeがあるので競合は手強いです。一方で、各線渋谷駅からのアクセスは良好です。十分競争力はあると言ってよいでしょう。
なお、店内には気に入ったらその場で購入できるカウンターも設置されていましたが、価格感度の高い若年層がそこでポンと10万円以上を出すかはやや疑問です。

GalaxyAIのココがスゴイ!
前提として、Galaxy AIはGalaxyに搭載されるAI機能の総称で、GoogleのGeminiと連携しています。この連携によって、GoogleのAIモデルがS24シリーズ以降のモデルで、テキスト生成、音声認識、画像編集などの機能を提供します。8
これがS25ではさらに強化されました。
目玉はオンデバイスで処理できることです。Gemini Nanoがその役割を担い、簡単なタスクはGalaxy上のNPUで、複雑なタスクはクラウド上で行うことで、オフラインでのAI機能の利用や低遅延、プライバシーリスクの低減を実現しています。9
サムスン自身はかつてBixibyを開発しており、同じ韓国のLINE社に関係が深いNAVER社もClovaを開発していましたが、米国勢に劣後したことを悟った瞬間、速攻で自社モデルを切り捨ててきました。これは良し悪しではありますが、少なくとも我が国のメーカーにはあまり聞かない迅速な経営判断です。彼らはサンクコストを惜しむ概念を知らないんでしょうね。
GalaxyAIのココが惜しい!
これは前項の裏返しで、性能の進化をGoogleに依存していることです。OpenAIの方がすごいとかAnthropicの方がすごいとかそういうことではなくて、発売した瞬間に目玉機能が陳腐化してしまう恐れがある、ということです。
あるいは競争面の劣後でなくとも、オンデバイスAIということは必然的にモデルの定期的な更新が必要です。更新してくれるユーザーばかりとは限りませんし、デバイス容量の問題が生じる可能性もあります。
またクラウド処理とオンデバイス処理がスムーズに切り替わるかどうかも問題です。渋谷でのYouTubeの書き起こしデモが上手くいかなかった理由はここなのではないかと筆者は睨んでいます。
S25シリーズの可能性
サムスンの強みはハードウェアでしょう。ここ数年は目立ったものがありませんが、今年はGalaxy S25 Edgeがあります。約6mmの薄型ボディは、iPhone 17 Airに対抗できますし,なによりワクワクします。
久しぶりにワクワクするスマートフォンが出てきそうなので、筆者はUnpackedを見て興奮しました。AIなんかよりよほど重要なことではないでしょうか。
Reference
- https://hyudaepon.net/2024/03/08/20085/ ↩︎
- 株式会社MM総研.”通信事業者の機種変更施策とAI機能で3年ぶりの増加に
「2024年(暦年)国内携帯電話端末の出荷台数調査」”.MMRI.2025.https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=667,2025-02-19 ↩︎ - 株式会社IDC Japan.”2024年第3四半期の国内携帯電話/スマートフォン市場実績値を発表”.IDC.2025.https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ52777524,2025-02-19 ↩︎
- 谷頭和希.”「若者の街」じゃなくなった渋谷への寂しさの正体”.東洋経済オンライン.2024.https://toyokeizai.net/articles/-/846128,2025-02-21 ↩︎
- NotebookLM的な ↩︎
- PwC US.”Experience is everything. Get it right.”
https://www.pwc.com/us/en/services/consulting/library/consumer-intelligence-series/future-of-customer-experience.html ↩︎ - 6, Customers also said they were more likely to try additional services or products from brands that provide superior customer experience. ↩︎
- Samsung Newsroom.https://news.samsung.com/global/samsung-and-google-cloud-join-forces-to-bring-generative-ai-to-samsung-galaxy-s24-series ↩︎
- Samsung Semiconductor,https://semiconductor.samsung.com/technologies/processor/on-device-ai/ ↩︎
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