2021年はSIMロックが原則禁止されるなど、携帯業界にとって大きな節目となる年でした。
しかしSIMロックが禁止となっても、その恩恵を受けることが出来るのは一部の機種のみです。
主にiPhoneとGoogle Pixelくらいで、あとはAQUOSなど例外的な一部のスマートフォン程度しかありません。
過去に「キャリア版Androidのバンド縛り問題」について触れた記事を執筆しましたが、近年再び話題になっているようです。
今回はバンド問題がなぜ起きているのかに加えて、バンド縛り禁止についての問題点について更に詳しく考えてみます。
マイナーバンドの採用と独自の流通システム
日本ではバンド18・バンド19の800MHz帯、バンド11・バンド21の1.5GHz帯など、他国でほぼ採用例がない大変珍しい周波数が運用されています。また5Gでもバンド79(4.5GHz帯)は、日本以外では香港でしかまともに使われておらず、十分珍しい周波数といえます。
珍しい周波数を運用しているということは、他国と同じハードウェアをそのまま日本でも発売するということが難しいことを意味します。また「おサイフケータイ」などいった日本特有の需要も存在します。
よって日本専用のハードウェアを設計する必要が生じ、その分参入障壁が高くなったり、大量生産できないことなどによるコスト高の原因になったりします。
こういったリスクを回避するためかは不明ですが、日本では基本的にメーカーの製品をau・ドコモ・ソフトバンクといった通信事業者が代わりに販売する、OEMのような形でスマートフォンを販売する仕組みとなっています。
例えばドコモでは、OEMではないApple製品と、ドコモのブランド(OEM)として発売しているスマートフォン(つまりドコモ版Android)で商品を分類分けしています。
これはメーカーと通信事業者の両社がウィンウィンの関係です。顧客の声はさておくとして、メーカーと通信事業者にとっては、リスクを最小限に抑えることができる最も合理的な販売形態と言えるでしょう。
筆者はこの要因が「日本で通信事業者の意向がふんだんに取り込まれたスマートフォンが蔓延っている理由」の最も大部分を占めていると考えています。
キャリアとメーカーによる責任の爆弾ゲーム
スマートフォンが壊れた場合、どこが責任を持って修理などの対応を取れば良いのかという問題が発生します。
消費者としては「買った場所」を修理等の対応先として認知するのが一般的です。よってまずはケータイショップに持っていくことになるため、通信事業者が責任を持って補償サービス・修理対応を行うのが、大半の消費者にとって合理的と言えます。
しかし通信事業者のものとして販売しないメーカーの製品となると、そう簡単にはいきません。
例えばiPhoneの場合、修理や交換などの対応は原則メーカーのAppleに案内されます(例外あり)。これでは「さらにAppleのストアか正規サービスプロバイダに足を運ぶ」という二度手間が発生し、消費者にとって余計な負担がかかってしまいます。
このような責任の所在問題から「通信事業者のスマートフォン」として通信事業者が責任を持って販売した方が、ITリテラシーの高くない多数派の消費者にとってもメリットが大きいわけです。
日本人は”手厚いサポート”が当たり前?
少し余談になりますが、日本は海外よりもアフターサポートを多く求めるイメージを受けます。これは「街の電気屋さん」の影響であると筆者は考えています。
今はほとんどなくなっていますが、日本ではブランドイメージ確保や競合他社の参入を阻止するなどの理由で、様々な業界においてメーカーが流通までを担う「流通系列化」が長らく推し進められてきました。
例えば電化製品では、街の電気屋さんが、あるメーカーの電化製品のみを取り扱い、値下げをほとんどせず販売するという時代が長く続いていました。
値下げはメーカーの経営方針により行うことが出来なかったため、街の電気屋さんは「値下げしない代わりにアフターサポートを充実させる」という手段を取り、売り上げを維持していました。
これにより「どの顧客が何を買ったか」を全て把握し、何か故障した場合すぐに駆けつけてくれるうえ、何なら無料で修理してくれる場合があるという、過剰なまでの手厚いサポートが当たり前のように行われてきたのです。
日本の消費者はこの過剰なサポートにすっかり馴染んでしまい、今日でも携帯電話において当然のように、これらを求めている節があるのではないでしょうか。
こういった「何かあったらケータイショップに駆けつける」という顧客のリテラシー水準のままでは、いつまでたっても”バンド縛り”や”通信事業者のロゴ刻印”、”消せない通信事業者のアプリ”はなくならないと思います。
バンドに対応するだけでは意味がない
なお総務省はこの「バンド縛り」を問題視しており、今後なんらかの対応を通信事業者やメーカー各社に要請するとみられます。しかし、バンドに対応するだけでは全てを解決することはできません。
データ通信においてエリアに支障なく利用できたとしても、通話できるかどうかはまた別の問題です。バンドとは別で各回線のVoLTE通話に対応する必要があり、これに対応していなければ通話ができないケースも生じます。
加えて、電波を束ねて高速通信を実現するキャリアアグリゲーションにも対応しなければ、混雑する場所・時間において十分な通信速度を出すことが難しくなるでしょう。
つまり「他社バンドに無理やり対応する」だけでは中途半端です。しかし総務省はこういった他の問題を把握しているとは到底思えません。
筆者は他社バンド対応の要請を行うのであれば、一緒にVoLTE通話とキャリアアグリゲーションの対応要請も必要だと考えています。特に前者に関しては万が一の緊急通報ができない可能性があり、もっと問題視されて良いはずです。
まだまだ課題はたくさん残されていますが、日本の携帯電話市場が健全化されていくことを期待しています。
参考
携帯電話端末が対応する周波数の現状について – 総務省(PDF資料)
加藤健太・大石直樹『ケースに学ぶ日本の企業 – ビジネス・ヒストリーへの招待』有斐閣、2020年
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