「4割値下げする余地がある」と発言した菅義偉氏の一声から始まった、携帯料金の値下げ合戦。
各社立て続けに行った値下げは2021年で落ち着きを見せ、最も話題となった「オンライン専用プラン」も消費者に定着しつつあります。
消費者にとって値下げは非常に喜ばしいことではありますが、ただ値下げをすれば良い、というわけではないかもしれません。
筆者がなぜ携帯料金値下げに危機感を抱いているのか、具体的な調査結果を提示しつつまとめます。
日本の携帯代金は大幅に安くなった
実際にICT総研の2020年と2021年の調査を比較しても、日本の携帯料金は大幅に安くなりました。
- 2020年
- 2021年
2GB・5GB・20GBのデータ容量で比較すると、いずれも半額以下になっていることが分かります。
特に2GBと20GBで値下げ幅が大きく、いずれも1年で約65%も値下げされています。4割値下げというか、料金そのものが従来の4割以下になりました。
2021年のデータ無制限のプランでさえも2020年の20GBより安価になっています。
この値下げの影響により、調査対象の他国と比較しても非常に安価な部類となりました。以前より安価な水準であるイギリス・フランスと肩を並べています。
従来から日本の4G品質は世界トップレベル
とはいえ、値段だけでは評価できません。通信を行うには品質も重要です。
- 2020年
- 2021年
横軸・縦軸の値が異なるので注意が必要ですが、いずれも日本が最も高い4G接続率を実現しています。具体的な数字は2020年で98.5%、2021年で99.4%でした。
以前は料金が高い分通信品質が高いと言えましたが、値下げの影響により料金が安ければ品質も高いという状態になりました。
2021年の調査ではネットワーク接続率の内訳も公表されており、日本の4Gの繋がりやすさが可視化されています。
また通信速度も他調査国と比較してかなり速いようです。
調査時点(2020年)で高速通信可能な5Gが既に広く展開されていた韓国には及ばないものの、日本は4Gで欧米の調査国に圧倒的な通信速度の差をつけています。
この調査結果から、日本は安価ながらも世界トップクラスの繋がりやすさと通信速度を兼ね備えていると言っても過言ではないでしょう。
通信品質低下の恐れ
では本題に戻ります。
以前より通信の品質の高さを「それなりの料金設定」で維持していたとすれば、国からの料金値下げ圧力によって通信品質の低下を招く恐れがあると言えます。
圧倒的な4G接続率と通信速度には、たくさんの基地局を新設するコストがかかります。しかしそれだけではなく、設置した基地局を維持するコストもかかります。
携帯料金の値下げにより、通信事業者は本業の収入が大きく減少してしまいます。つまり、利益を維持するには必ずどこかでコストカットを行わなければなりません。
通信はインフラである以上簡単に基地局を撤去したりはしないでしょうが、日本の通信事業者は営利を求める民営企業です。いずれそうなってしまう可能性はゼロとはいえません。
他国に次世代通信規格で遅れを取る可能性
執筆現在、次世代通信規格である5Gは過度期です。まだまだ主流は4Gですが、各社5Gエリアの拡大に努めています。
当然この5Gエリアの拡大にもお金がかかるわけで、通信事業者の収入が減少すれば5Gに投資できる額が減ります。よってエリア拡大のペースに影響を及ぼす可能性があるのです。
5Gに遅れを取るということは、今後の技術発展および経済成長も遅れてしまうということになりかねません。
今も昔も「新幹線の建設」が日本の経済成長を左右するレベルの国家プロジェクトであるように、5Gエリアの拡大もまた国家プロジェクトなのです。
おわりに
何事においても、今後の成長には事前の投資が必要不可欠です。後からでは間に合いません。
短期的に見ると損をするようなプロジェクトであっても、投資を行ったおかげで長期的な利益を確保できた、という経営の事例も少なくありません。
逆に言えば目先の短期的な利益にだけ目を付けた行動ばかり取っていると、長期的に見ると損をしてしまうということでもあります。
杞憂かもしれませんが、日本の通信インフラにおいては、そういったことにならないよう願うばかりです。
2020年 スマートフォン料金と通信品質の海外比較に関する調査|ICT総研【ICTマーケティング・コンサルティング・市場調査はICT総研】 (ictr.co.jp)
2022年1月 スマートフォン料金と通信品質の海外比較に関する調査|ICT総研【ICTマーケティング・コンサルティング・市場調査はICT総研】 (ictr.co.jp)
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