昨今のスマートフォンには必ずといっていいほど搭載されている位置情報システム。しかし人工衛星を用いて世界中の位置情報サービスを提供する”全球衛星測位システム(GNSS)“は全てGPSだと思っている方も多いのではないでしょうか?
これは言葉として伝わり、誰も気に留めることはないのですが、厳密に言うと間違った表現になります。鉄道車両を全て「電車」と呼称したり、タブレットのことを全て「iPad」と呼称することと同じです。
鉄道車両の駆動方式やタブレットにも様々な種類があるように、衛星測位システムにも様々な種類があるのです。
というわけで、今回はその代表的なGNSSを簡単にご紹介したいと思います。
※運用中の人工衛星のデータは2021年8月30日時点のものです。今後運用中の人工衛星を停止、または運用を終了させたり、新たに人工衛星が打ち上げられる場合もあるので、最新のデータは本記事の最後に記載している参考文献よりご覧ください。
GPS
言わずと知れた最も代表的な衛星測位システムで、米国が運用しています。
冷戦時代に米国が軍事目的で開発したことから始まりますが、乗員乗客が全員亡くなった1983年の大韓航空機撃墜事件をきっかけに民間開放され、現在に至ります。
GPS衛星は高度約2万kmの準同期軌道上を30機が運用中です。
GLONASS
旧ソ連が開発し、現在はロシアが運用している衛星測位システムです。
GPSと同様に冷戦時代に軍事目的で開発されました。
ソ連崩壊により運用が一時的にストップしたり、老朽化により利用できる衛星が減少したりと紆余曲折ありましたが、徐々に復旧されたのち2007年より民間開放されました。
GLONASS衛星はメンテナンス中や検査中のものを含めて26機が運用、または準備中です。
Beidou (北斗)
中国が運用している衛星測位システムです。
米国のGPSに依存しない、独自のシステムを導入する目的で立ち上げられました。Beidouも軍事目的の側面が大きいですが、現在は民間にも開放されています。
地上への送信のみに対応したGPSとは異なり、地球上にある対応機器と送信だけでなく受信も可能な点が大きな特徴です。
Beidou衛星は検査中のものを含めて59機が上空で運用、または準備中です。
Galileo
欧州連合(EU)により運営されている衛星測位システムです。
GNSSで最も普及しているGPSは米国国防総省が運営しているため、軍事上の理由などにより民間利用に支障をきたす場合があります。これを避けるためEUが主体となって立ち上げたプロジェクトがGalileoです。また、当初から民間向けの利用を前提としているのも特徴です。
Galileo衛星は高度約2.4万km上空を22機が運用中です。
QZSS (みちびき)
地域衛星系ですが、日本が運用している衛星測位システムなので紹介します。
準天頂軌道衛星という、高度約3.2万~3.9万km上空で、地球から見て8の字の軌道を描く人工衛星により、局地的に位置情報サービスを提供するシステムです。
米国のGPSと互換性があり、上記の日本を含む一部のアジア太平洋地域では、GPSの精度を補うような形で利用することができます。
そのため、GPSに加えてQZSSに対応したスマートフォンは位置情報の精度が向上します。
現在みちびき衛星は4機が運用中です。
さいごに
以上代表的なGNSSと、みちびきについてでした。
衛星測位システムは、国が主体となって運用しているものがほとんどで、軍事利用を含む政治的な側面を持つことから、規模の大きい国では自前でシステムを構築することが多いです。そのため複数のシステムが混在しています。
それぞれにメリット・デメリットがありますが、複数のシステムに対応していれば冗長性の確保もでき、また位置情報の精度が向上することもあるため、メリットが多いでしょう。
なお、位置情報の特定にはこれらの衛星システムだけではなく、WiFiなどの接続によって補正を行う場合があります。
次にスマートフォンを購入する際は、位置情報システムのスペック表も確認してみると面白いかもしれません。
参考文献
GPS.Gov – GPS: The Global Positioning System
U.S. Coast Guard Navigation Center – GPS Constellation Status (GPS衛星運用状況)
IAC – GLONASS Constellation Status (GLONASS衛星運用状況)
CSNO-TARC – constellation status (Beidou衛星運用状況)
European GNSS Service Centre – Galileo Constellation Information (Galileo衛星運用状況)
内閣府宇宙開発戦略推進事務局 – みちびき(準天頂衛星システム)
MBS – スマホやカーナビに使うGPSの進化 きっかけは大韓航空機撃墜事件
日本経済新聞 – 中国版GPS網 最大に 6割強の国で米国製抜く
JAXA – 準天頂衛星初号機「みちびき」の準天頂軌道投入について
アイキャッチ画像提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局
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