近年スマートフォンのディスプレイとして急速に普及している有機EL(OLED)。液晶よりも優れていると言われる点は
- 消費電力が低い(諸説あり)
- 薄型・軽量化しやすい
- 発色が良い
- デザインの自由度が上がる
などがあります。このような点からスマートフォンと相性が良いため、よほどの廉価機種でない限り液晶ではなく有機ELが採用されるようになりました。
そして、液晶のようにバックライトで照らして発光するわけではなく、ピクセルの粒自身がそれぞれ発光しているので、黒は一切点灯せずに表現できる(コントラスト比が高い)というメリットがあります。
なので有機ELのスマートフォンでは黒を多用したテーマにするとバッテリー消費が少なく済む、と言われているのです。
しかし「消費電力を抑制するには、ディスプレイが全く点灯しない完全な黒でないといけない」というわけではありません。ダークグレーでもほぼ同等の十分なバッテリー消費の抑制が期待できるからです。
今回はダークグレーでもほとんどバッテリー消費が変わらない理由について簡単に解説します。
電力を消費するのはディスプレイだけではない
確かにスマートフォンで最も電力を消費する部品の一つにディスプレイが存在しますが、バッテリーを消費するものはディスプレイだけではないということを念頭に置く必要があります。
たとえディスプレイが全く電力を消費していなかったとしても、電源がついていればスマートフォンとして駆動するためのCPUといった基礎的な電力は必ず消費されるということです。
黒とダークグレーの輝度差は十分小さい
人間の感覚は強いものには鈍感で、弱いものには敏感であるという特徴があります。
これは感覚量は刺激量の対数に比例するというヴェーバー・フェヒナーの法則として知られるものですが、視覚も例に漏れず、明るいものには鈍感、暗いものには敏感です。
なのでスマートフォンのディスプレイも人間が敏感な低い明度をより表現できるよう、一般的にガンマ補正というものを適用して入出力を調整しています。
Googleマテリアルデザインで推奨されているダークテーマのHTMLカラーコードは#121212とのことです。
このグレーの輝度(明度)は7%であり、これに2.2乗のガンマ補正を行うと約0.3%という数字が導き出されます。
つまり真っ白(100%)の画面と比べて、このダークグレーでは約0.3%の輝度でしか出力されていないということになります。真っ黒が0%であることを考えると、ほぼ誤差であるということが分かります。
液晶はこの限りではない
ここまで説明しましたが、テーマの明暗でバッテリー消費に差が生じるのは基本的に有機ELディスプレイのみであり、一般的な液晶ディスプレイに差はほとんど生じません。
というのも、液晶ディスプレイはバックライトを当てて画面を表示する方式のためです。
TFT液晶ディスプレイでは、TFTおよび透明な画素電極を形成したガラス基板と、カラーフィルター(RGB)および透明な対向電極を形成したガラス基板とで液晶層を挟み込みます。さらに、両方のガラス基板の外側に偏光板を貼り合せ、裏面にバックライト光源を配置します。 液晶にかける電圧を変化させることで偏光板2枚を含めた透過率が変化し、バックライトからディスプレイ表面に通過する光の量が変化します。
株式会社ジャパンディスプレイ – 技術情報:液晶ディスプレイの基礎

このように、ピクセルごとに薄膜トランジスタ(TFT)は配置されているものの、バックライト光源はそれぞれピクセルごとに分けられていないということが分かります。
よって、画面がついている時は常にこのバックライトが点灯しているため、輝度を調整しない限りテーマの明暗によるバッテリー消費の差はほとんど生じないというわけです。
まとめ
有機ELディスプレイのスマートフォンでは、完全な黒でなくても十分なバッテリー消費量抑制が期待できるということが分かりました。
ただし、状況に応じてライトモードとダークモードのバッテリー消費量の差は変動するようなので、注意が必要です。
実機で調査を行った具体的な数値はXDAが英語で公開しているので、気になる方は参考文献から記事を読んでみてください。
参考文献
No, “AMOLED Black” Does NOT Save More Battery Than Dark Gray (xda-developers.com)
Dark Mode can extend your phone’s battery life, but there’s a catch (xda-developers.com)
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